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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)102号 判決

原告

高木治江

ほか三名

被告

江波弘泰

ほか一名

主文

一、被告らは、各自、原告高木治江に対し金八〇〇、〇〇〇円、原告高木浩志、同高木智子、同高木健志に対し各金四〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四四年一〇月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

主文同旨の判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言

第二、請求の趣旨に対する答弁

請求棄却の判決

第三、請求の原因

一、事故発生

(一)  発生時 昭和四二年八月二六日午前九時二〇分頃

(二)  発生地 寝屋川市香里園町七番五号

(三)  事故車 普通貨物自動車(大阪四な六三-三七号)

運転者 被告近藤美登

(四)  被害者 訴外亡高木晋一郎(当時六九歳)

(五)  態様

被告近藤は事故車を運転して事故現場道路を東から西へ進行中、同道路を北から南へ横断しようとしていた被害者に事故車を接触し、転倒させたもの

(六)  死亡

訴外高木晋一郎(以下亡晋一郎という)は昭和四二年八月二八日午前三時死亡した。

二、責任原因

(一)  被告江波弘泰は、事故車を所有し、自己のため運行の用に供していたもの(自賠法第三条の責任)。仮にそうでないとしても、同被告は、訴外株式会社江波商店の代表取締役で、同会社の従業員である被告近藤美登を同訴外会社に代り、現実に指揮監督する立場にあつたところ、被告近藤が後記の過失によつて本件事故を発生させたもの(民法第七一五条第二項の責任)。

(二)  被告近藤美登は、本件事故発生につき、次のような過失があつた(民法第七〇九条)。

(被告近藤の過失)

本件事故現場は商店街で道路の幅員が六・五メートルと狭く、歩車道の区別もなく人通りの多い個所であつたから、減速徐行し前方左右をよく注視して進行する義務があるのに、進路右方の歩行者に注意を奪われ前方をよく注視せず時速三〇キロメートルと従前と同一速度で進行した過失。

三、慰藉料

(一)  原告高木治江は亡晋一郎の妻、その余の原告はいずれも直系卑属である。

(二)  亡晋一郎は、旧制神戸高等商業学校を卒業して銀行員となり支店次長に昇進後、退職したが、原告方一家の経済的、精神的な支柱であり、これを失つた原告らの精神的苦痛は甚大で、慰藉料として、原告治江が金二、〇〇〇、〇〇〇円、その余の原告らが各金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当であるが、自賠責保険金として金二、九八〇、〇〇〇円の支払いを受けているので、その残金の内金として、原告治江が金八〇〇、〇〇〇円、その余の原告らが各金四〇〇、〇〇〇円の慰藉料の支払いを求める。

四、よつて、請求の趣旨どおりの判決を求める。

第四、請求の原因に対する答弁

一、被告江波弘泰

請求原因一項の事実を認める。同二項のうち、事故車の所有者が被告江波であるとの点を否認する。事故車の所有者は訴外株式会社江波商店であり、被告江波はこれを運行の用に供したことはない。同第三項の損害額を争う。

二、被告近藤美登

請求原因一項(一)ないし(五)の事実を認める。同二項(二)の各事実を認める。同三項の損害額を争う。

第五、証拠関係〔略〕

理由

第一、事故発生

被告江波弘泰との関係で請求原因一項の事実は全部当事者間に争いがなく、被告近藤美登との関係で(六)の事実を除き同一項の事実は全部当事者間に争いがなく、同一項の(六)の事実は〔証拠略〕により認めるに十分であり、これに反する証拠はない。

第二、責任原因

一、被告江波について。

(一)  原告は、被告江波が事故車を所有しこれを運行の用に供していたと主張するが、原告の全立証および本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

(二)  〔証拠略〕を綜合すれば、本件事故当時、被告江波は訴外株式会社江波商店の代表者であつたところ、同訴外会社は金物類の販売等を業とし、被告近藤を含む三人の従業員を使用していたが、極めて小規模な営業で、被告江波の個人企業的な色彩が強く、同被告が店主として、被告近藤を含む従業員の選任、指揮、監督等一切をなしていたこと、被告近藤は、事故当日、同訴外会社の商品を得意先に届けるため事故車を運転していたものであること、同訴外会社は事故後間もない昭和四二年一一月頃倒産したが、その後同一場所で同種の営業を営む香里金物有限会社が設立され、被告江波が取締役、被告近藤は従業員として勤務していること、がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、被告江波は、本件事故当時、訴外株式会社江波商店に代つて事業を監督する立場にあつたもので、同訴外会社の従業員であつた被告近藤が同訴外会社の業務を執行するにつき本件交通事故を発生させたものであるものと認められ、そうならば、被告江波は民法第七一五条第二項により代理監督者として、本件事故による損害を賠償する責任があるものといわざるをえない。

二、被告近藤

同被告との間で請求原因二項(二)の事実は当事者間に争いがないので、同被告は民法第七〇九条により不法行為者として、本件事故による損害を賠償する責任がある。

第三、損害

一、原告らと亡晋一郎との身分関係については、〔証拠略〕により、原告ら主張どおり(請求原因三項(一))である事実が認められ、これに反する証拠はない。

二、右の如き身分関係にある原告らが、その夫あるいは父を失つた精神的苦痛の大きいことは容易に推認でき、原告らにおいて自賠責保険金として金二、九八〇、〇〇〇円を受領していること、前記の如き事故態様と被告近藤の過失(但し本件事故態様からして亡晋一郎にも道路横断するにつきいささか左方の安全確認を怠つた点も認められる)、その他本件に顕れた一切の事情を考慮し、慰藉料を、原告高木治江につき金八〇〇、〇〇〇円、その余の原告につき各金四〇〇、〇〇〇円とするを相当と認める。

第四、以上によれば、被告らは各自原告治江につき金八〇〇、〇〇〇円、その余の原告らにつき各金四〇〇、〇〇〇円およびこれに対するいずれも訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四四年一〇月八日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務あること明らかであるから、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉崎直弥)

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